紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク | 紀伊・環境保全&持続性研究所(三重県津市) 連絡先:kiikankyo@zc.ztv.ne.jp |
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中勢地域にある津市のため池
― 赤池・池尻池を中心とするため池群 ―
はじめに
三重県には約3,500のため池があり、全国的に見てもため池の数の多い地域の1つである。三重県でため池が多いのは伊勢平野と伊賀地域である。伊勢平野の中では、津市、松阪市を中心とする中勢地域にため池が多い。
津市には比較的面積の広い2ha以上の農業用ため池が29あり、隣の松阪市には17ある。
津市に有る2ha以上のため池で築造年代が知られているものでは、江戸時代に築造されたものが多い。これらのため池は、現在も、農業用水を供給し、堰堤の除草などが定期的になされ、立派に本来の機能を果たしている。
ため池は、昔から農業用水の供給源として、農業のため、農家のためのものとして機能してきた。一方、地域によっては、ため池周辺に非農家の混住化が進んでいる。このような状況下から、ため池は農業上の機能だけでなく、別の側面からの機能が見直されている。
ため池の多面的機能をまとめると、下記のようなことが挙げられる。
1)農業用水供給機能津市に存在する数多くのため池は、それぞれ特徴と持ち味があり、上記の諸機能の幾つかを併せ持っている。丘陵近くに位置するため池は、丘陵や山地を背景として良好な景観を提供し、例えば、白山町の惣谷池と須磨河内池では背景の山の尾根筋に風力発電用風車が林立する景観を提供する。榊原町の榊原池、安濃町の小古曽池などは緑の山とため池とが調和した景観が美しい。周辺林地の山桜が美しい安濃町の安部池、周辺林地の新緑が美しい神戸の新池、野田の赤池・池尻池、久居森町の山田池、白山町の須磨河内池等、秋の紅葉が美しい一身田大古曽の新池などがある。また、公園の一角にあってため池周辺が散策コースとなっている惣谷池、安濃町の蛇谷池などがある。津市で一番大きな戸木町の風早池、二番目に大きい芸濃町の横山池は長い堰堤がみごとである。
ため池の生物多様性保全機能としては、特に、水生生物の保全機能が重視される。平成18年から20年にかけて、赤池・池尻池ため池群、芸濃町の二重池ため池群、安濃町の小古曽池、大里窪田町の大澤池、一身田大古曽の新池・平子池、上浜町の兵丹池ため池群の6箇所でトンボ類の種数を調査した。それぞれ順に24種、21種、25種、21種、23種、21種が確認され、これらのため池周辺に林地があることがトンボの種数の多い要因と考えられた。
鳥類のうち、カモ類など冬鳥の種数と数が最も多いのは西阿漕町の岩田池であり、兵丹池、大澤池などにも多い。カワセミは上記の調査対象のため池でいずれも観察され、カイツブリの繁殖が見られるため池もある。
ため池百選に推薦する津市野田の「赤池・池尻池ため池群」の特徴
津市野田にある赤池・池尻池は、連絡水路で繋がった二重池構造になっている。赤池の面積は約24,700 m2、池尻池は約14,100 m2である。赤池の北側に隣接して津市西部クリーンセンターがあるが、ため池周辺の旺盛に生育した樹叢に隠され、建物の一部と煙突だけが見える。また、平成19年には池尻池の西側の丘陵地に工業団地が造成されるなど、ため池周辺に非農業施設が作られているが、工業団地の法面には樹木が植えられたので、将来的には境界には樹木が茂ることになるだろう。
赤池は、江戸時代初期かそれ以前の築造と伝えられている。赤池だけで周辺の水田約40haを潅漑しており、ため池群全体では60〜70haを潅漑しているとみられる。赤池・池尻池周辺にはため池が多い(図1)。
池尻池と赤池を区切る曲がりくねった土手上には良く手入れされた細い道があり、その先は、赤池の北東側の岸辺に沿って林の中を通り、松林池に至るまでの大小6つのため池を連絡している。(図2、図3)。このため池群を巡る道は片道約1.2kmである。
ため池群を巡る道すがら、春夏秋冬の樹々の色彩の変化を楽しめ、動植物の種類も楽しめる。夏期には道の途中が草に覆われるが、除草をすることによって周年の散策路となり得る。ため池群は、多くのため池と林地で構成された生態的ネットワークを形成している。特に、トンボ類にとっては、幼虫がため池内を、成虫が隣接する林地を餌場として利用しており、生態的ネットワークがこのため池群におけるトンボの種数を多くし、密度の高い要因となっている。ため池群を巡る道から、大小のため池のたたずまいが見られる。
また、ため池周辺の林間の道ではウグイスやシジュウガラなどの小鳥の声を聞きながら、いろいろなトンボの種類や植物を観察することができる。ため池では、アオサギなどのサギ類、カワウ、セキレイ類、カワセミ、カルガモ、冬にはカモ類を観察することができる。水生植物については、カヤツリグサの仲間が池尻池の岸に沿って帯状に生育し、小さな池にはガマの群落が見られる。
ため池は、秋になると水が抜かれ池の底が干されるが、全てのため池が一斉に干されることはないので、ため池群となっていることが水生生物の保全にとって有利な条件となっている。
ため池を活用した自然観察、環境学習については、近くにこれを実施している学校や地域団体、非農家の住民の存在が重要である。赤池・池尻池ため池群には、時折、近隣の高校生が教官に連れられて自然観察に来ている。その他、赤池・池尻池ため池群の近くの小学校では、ため池を題材に自然観察、環境学習が行われている。また、近くに里山環境で自然観察をしているNPOがあるなど、今後、赤池・池尻池ため池群で自然と環境を学ぶことが一層の盛んになっていくものと期待される。
津市にある多くのため池の中から「赤池・池尻池ため池群」を選んだ理由は、このため池群が、景観だけでなく、周辺住民により自然観察や環境教育に活用され、また、ため池を楽しみながら多面的機能が理解され、さらに、非農業関係施設との共存が図られ、環境影響などをウオッチングしていくのに格好の対象となり得ると考えたからである。
赤池・池尻池についての情報は、「三重県津市のため池データベース」の三重県津市野田の赤池・池尻池 をご覧ください。